子どものレジリエンス力を養う家庭環境と教育方法

2023年9月30日
 

子どもの「レジリエンス教育」とは?

レジリエンス」とは、困難な状況にも耐えられる心のこと。心理学的には、課題や逆境から立ち直り、状況に対応する能力を指す言葉です。
 
レジリエンスは学べるスキルであり、子どもから大人まで学ぶことができます。この記事では、レジリエンス教育とは何か、子どものレジリエンスを育む家庭環境や親子関係などについて詳しく解説します。

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子どもにとってのレジリエンスの重要性

子どもは、将来の長い人生で逆境や困難を避けることができません。年齢に関係なく、個別の問題があります。現代の若者は特に不安やプレッシャーに直面しています。未来は見通しが立たず不透明な状況です。親が歩んできた人生を、子どもが歩むことが保証されていません。
 
そのため、子どものうちからレジリエンスを育てることは、逆境に直面しても健全に成長できる心理的資源を作ります。このアプローチは、子どもを前向きに育て、幸せな人生を願う親や教師にとって重要なことです。

「つまずく」子どもに必要なレジリエンス

子どもたちは、日常的なシーンで「つまずく」ことが少なくありません。
 
テストやスポーツの成績が悪いと、気分が沈んでクヨクヨする。理由もなくイライラし、友達からかわれるとキレてケンカになる。新しいことにチャレンジするときに「自分には無理」と消極的にあきらめたり、友達や兄弟と比較して自信をなくし「どうせ私なんて」と落ち込んだりする。習い事で思い通りにいかないと、やる気をなくし「やめる」と言う。

一度失敗すると、「次もうまくいかない」と心配し、一人で抱え、誰にも相談できなくなります。多くの子どもたちがこのような「つまずき」を体験しています。今の時代の子どもたちは、ストレスを背負って生活しています。だからこそ、レジリエンスは必要です。

子どものレジリエンスに必要な3つの資源

「国際レジリエンス・プロジェクト」(Yates and Masten, 2012)の研究により、子どものレジリエンスにとって3つの資源が重要であることが結論付けられました。
 
1.「I HAVE」:外部の支援や資源。
2.「I AM」:内的資質(感情、態度、信念)。
3.「I CAN」:社会的スキルや対人関係スキル。
 
子どものレジリエンスを枠組み化することで、その主な強さの源泉の性質や程度を明らかにすることができます。例えば、相談できる大人がいるか、自分の技術に自信があり、将来に楽観的か、質の高い友人関係が築けるかなどです。

親としては、これらの資質を強化する環境を提供することが大切です。

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子どものレジリエンスを育てる3つの環境

研究によると(Blaustein & Kinniburgh, 2018)、子どものレジリエンスを促進する領域固有の資質は以下のとおりです。
 

個人/子ども内面領域

知能、活発な気分、楽観的な見通し、問題解決能力、自尊心、自己効力感、感情の柔軟性、アクティブなライフスタイル、感情コントロール、ユーモア、自律性、共感性。
 

社会的/家族的領域

乳児の両親への確実な愛着、温かい協力的な両親、調和のとれた両親、協力的な大人との社会的結合、有意義な友人、健全な兄弟関係、社会的能力、協力的学習能力、助けを求める能力、両親の監督、効果的な育児スキルなど。
 

文脈的/環境的領域

安全な地域、質の高い学校、地域社会との親密さ、放課後プログラムの利用、協力的な大家族、学校での成功体験、価値ある社会的役割(例:仕事)、前向きな指導者、信仰に基づくまたは他の有意義な地域社会の活動。
 
1つ目の領域は子供自身に関するものですが、2つ目と3つ目の領域は、子どものレジリエンスを育てるために、親が作り出すことができる環境となります。
 
レジリエンスの高い子どもを取り巻く環境の特徴は次の3つにまとめられます。

「レジリエンス」を育む環境 1)家庭環境の安定

明確な親子コミュニケーション、親子・夫婦間の感情表現の自由、対等の夫婦関係、家族一丸となって前向きに物事に取り組むことは、子どものレジリエンスを育む家庭環境の特徴です。

「レジリエンス」を育む環境 2)両親のロールモデル

親が見望されるロールモデルとしての役割は、子どもの成長にとって重要な外的要因です。子どもは、身近な親を手本とします。家族としての親は、最も身近なお手本です。
 
困難に直面したときにも前向きに対処する両親が、子どもにレジリエンスを身につけさせる最高のロールモデルです。両親を通して学んだ経験は、子どもに「自分でもできる!」という自信を与えます。
 
両親が強くて有能なロールモデルとして子どもに見せられるほど、子どものレジリエンスが高く育つ可能性が高くなります。心理学の研究によると、わずか2歳のこどもでも、親の言動や態度、思考スタイルを真似ることが判明しています。特に悲観的な言動が多い母親の影響を受けた場合、子どもの考え方もネガティブに傾きがちです。
 
親は子どもの心理に大きな影響を及ぼすため、できるだけ良いロールモデルとなりたいものです。子どもにとって親がロールモデルとなるには、自分の人生においてレジリエンスを発揮した体験を子どもたちに語ることが有益です。困難があっても「なんとか乗り越えられる」と楽観的にとらえ、柔軟に適応して課題を克服した体験談は、将来子どもが逆境に直面したときに見習うべきレジリエンスの貴重な教訓となります。

「レジリエンス」を育む環境 3)子どもにあった学校選び

学校の環境は子どもが占める生活の大半を占めるため、レジリエンスを形成する大切な外的要因となります。
 
子どもは学校生活で成功や失敗の経験を積み重ね、同級生と人間関係を形成し、同じ年代のグループを作ります。この中で自分の立ち位置を構築し、集団の認めを得ることができます。すべてはレジリエンスの向上につながります。
 
親としては、子どもの学校選びは大切な仕事です。学校を選ぶ際は学力を重視するのはいいですが、子どものレジリエンスを育てるための適切なサポート環境が整っていることも確認することが重要です。

レジリエンスを育てる7つのポイント

Brooks and Goldstein (2003)によると、親が子どものレジリエンスを促進するためには以下の7つのポイントが提唱されています。
 
1. 共感性を育む - 子どもが他人の悩みを真剣に考え、イメージする方法を教えます。
2. 話を聞く - 子どもの話に真に耳を傾けることが大切です。
3. 本来の姿を尊重する - 子どものさまざまな魅力を大切にしましょう。
4. 長所を強調する - 子どもの得意なことを見つけ、励まし、サポートします。
5. 失敗を学びにする - 失敗は学習経験と考え、次回はもっとうまくできるようにします。
6. 責任感を育てる - 自尊心と自己効力感を高めます。意義のある活動に参加することが大切です。
7. 問題解決の方法を教える - 問題に対処する方法を示し、模範を示して励まします。

「子どものレジリエンス」の育て方についてまとめ

家庭で子どものレジリエンスを育てるためには、

  1. 安定した家庭
  2. 親のお手本
  3. 学校環境

が重要な要因となります。
 
また、子ども自身が努力することも大切ですが、家族もレジリエンスを促進する環境を提供する責任を持つことが大切です。

参考文献

  • Yates, T. & Masten, A. (2012). Fostering the future: Resilience theory and the practice of positive psychology.
  • 『つよい子を育てるこころのワクチン』マーティン・セリグマン、他(ダイヤモンド社)
  • Blaustein, M. & Kinniburgh, K. (2018). Treating traumatic stress in children and adolescents, second edition: How to foster resilience through attachment, self-regulation, and competency. Guilford Publications. Retrieved from https://www.guilford.com/books/Treating-Traumatic-Stress-in-Children-and-Adolescents/Blaustein-Kinniburgh/9781462537044/prior-edition
  • Brooks, R. & Goldstein, S. (2001). Raising resilient children: Fostering strength, hope, and optimism in your child. Lincolnwood, IL: Contemporary Books.

執筆者の紹介

久世浩司 

応用ポジティブ心理学準修士(GDAPP)
認定レジリエンス マスタートレーナー
レジリエンス講師 久世浩司

執筆者の久世浩司は、ポジティブ心理学レジリエンスを専門にしています。慶應義塾大学卒業後、P&Gに入社し、その後は社会人向けのスクールを設立。レジリエンス研修の認知向上と講師の育成に取り組んでいます。NHK「クローズアップ現代」や関西テレビ『スーパーニュースアンカー』などでも取り上げられ、著書による発行部数は20万部以上。研修・講演会の登壇は上場企業から自治体・病院まで100社以上の実績があります。
 

主な著書
『「レジリエンス」の鍛え方』
『なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』
『なぜ、一流になる人は「根拠なき自信」を持っているのか?』
『リーダーのための「レジリエンス」入門』
『なぜ、一流の人は不安でも強気でいられるのか?』
『親子で育てる折れない心』
『仕事で成長する人は、なぜ不安を転機に変えられるのか?』
『マンガでやさしくわかるレジリエンス』
『図解 なぜ超一流の人は打たれ強いのか?』
『成功する人だけがもつ「一流のレジリエンス」』
『眠れる才能を引き出す技術』
『一流の人なら身につけているメンタルの磨き方』
『「チーム」で働く人の教科書』

わかりやすい初心者向けの本で人気(重版 16刷)

マンガでやさしくわかるレジリエンス

久世浩司 著 本体1650円(税込)日本能率協会マネジメントセンター

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