レジリエンスの鍛え方を知る

「レジリエンス」の鍛え方 

久世 浩司(著)
 

レジリエンスの鍛え方を学ぶ教科書 

今回は、ポジティブサイコロジースクール代表 久世浩司さんの本を紹介します。
 
久世さんは、ポジティブ心理学の普及を目指し、理事として日本ポジティブ心理学協会設立に携わりました。その後、実用性の高いポジティブ心理学と社会において実践可能なプログラムを学ぶことができるポジティブサイコロジースクールを設立、シンガポールと日本を往復しながら講義・研修など精力的な活動を行っています。

レジリエンスとは何か 

より良く生きるためにはどうすればよいか、何が人生を価値あるものにするか。
これは、「繁栄」を頂点にしたピラミッドに図式化することができます。
繁栄を支えるものは、「ポジティブ感情、エンゲージメント、関係性、意義、達成」というウェルビーイング五つの要素で、これらすべての土台となるものが私たちの「強み・徳性」です。
そして、このピラミッドを支え、ウェルビーイングを促進させるものが「レジリエンス」です。
 
アメリカ心理学協会は、レジリエンスを「逆境やトラブル、強いストレスに直面したときに適応する精神力と心理的プロセス」と定義しています。より良い人生のためには、逆境にあってもくじけず回復する力、折れない竹のようにしなやかな心を持つことが必要です。
レジリエンスとは心のテクニックであり、磨き、鍛えることができるものです。
 
 


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レジリエンスを鍛えるための7つの科学的手法

久世さんは、レジリエンスを鍛えるための7つの科学的手法を示しました。
 

①ネガティブ感情の悪循環から脱出する.
②思い込みをてなずける
③自己効力感を身につける
④自分の強みを活かす
⑤心の支えとなるサポーターづくり
⑥感謝のポジティブ感情を高める
⑦痛い体験から意味を学ぶ

 
逆境に直面したときに生じるネガティブな感情にどう対処するか、再起に必要な「レジリエンス・マッスル」を日頃どんなトレーニングによって鍛えるか、そして逆境から学び成長するにはどうしたらよいか。具体的な方法が記されています。
 

なぜいまレジリエンスが必要か

高齢化やグローバル化など社会の変化に伴う働き方の変化やブラック企業の問題など、若年層や中年・シニア層まで心の問題を抱える人が増加し、社会問題となっています。また、感情認知スキルの不足がもたらす危険性、強みでなく弱みにフォーカスすることの弊害、なぜ日本人は英語が上達しないかなど、様々な問題が提起されています。
 
人生で困難に直面したとき、その現実を見つめ、立ち向かうための力が必要になります。ネガティブな感情に支配されることなく、困難な状況や失敗から学び、成長し、リスクを怖れずに新たな挑戦をする。これらの底力になるのがレジリエンスです。
 
レジリエンスに適齢期はありません。子供からシニアまで誰もが学ぶことができる技術です。

自分のレジリエンスに気づく

人生チャートとレジリエンス・ストーリー

 
「人生チャート」は、真ん中に一本の線が引かれた紙に、山あり谷ありの自分の人生をそのまま視覚化するもので、人生プラスのときは線の上に、マイナスのときは線の下に、良いこと続きなら右肩上がりの線を描きます。
 
久世さんの講義ではこの図を書くとき、「落ち込んでもその底から再び上昇を始める、まさにそこに注目してください」と言われます。
谷の底の部分から上昇し始めたとき、そのきっかけは何であったか。どんなサポートがあったか。自分の中でどんな心理的変化があったか。
そして、ワークのパートナーと体験を語り合いシェアします。
 
私事で恐縮ですが、私は中央の「標準線」にとらわれ、線の上にある現象だけが幸せで価値あるものと思いこんでいました。しかし、パートナーとの対話を通して、つらいと感じた出来事も必ず乗り越えてきたこと、支えてくれた人の存在、自分の努力、その過程で感じた感謝や幸せな気持ちなどを思い出し、つらい出来事にも価値があるということや自分のレジリエンスに気づきました。
 
自分がレジリエンスを発揮してきたと認識することは、自信につながります。

レジリエンス3つの段階

 
このレジリエンス・ストーリーを語るというワークでは、「考え方・捉え方を変える」「視点を変えて見る」とはどういうことか、そして対話の重要性を学ぶことができました。たくさんの気づきが得られる、おすすめのワークです。
 
レジリエンスには三つの段階があります。

・精神的な落ち込みの底打ち段階
・上に向け再起する段階
・逆境体験をから離れ俯瞰し、内省する段階

 
久世さんは、最後の段階を「私という人間は一体何者なのかを学ぶプロセス」であると述べています。ここで深く内省し、成功も失敗も価値ある自分の人生だと気づくことができるのです。

著者の久世さんはどんな人?

長身、穏やかな微笑み、ソフトな口調…
少しクールな久世さんは、普段ご自身について多くを語るタイプではありませんが、ふとしたときに、学生時代に打ち込んだサッカーや演劇のこと、社内イベントでドラッグクイーンに扮したエピソードなどを披露し、熱くおちゃめな側面を“ちらっ”と見せてくれることがあります。
 
本書では、阪神淡路大震災被災の十数年後に「自分は生かされたのだ」と一種のスピリチュアル的な気づきを得た感情体験、「人材輩出工場」といわれる巨大グローバル企業P&Gにおける経験など、困難に直面しても乗り越えてきた久世さん自身のレジリエンス・ストーリーが紹介されています。
 
私たちは、ロールモデルとしての久世さんに学び、レジリエンスとは何か理解を深めることができます。
 
より良く生きるためにレジリエンスの大切さを説く久世さんの熱い思いが感じられる一冊です。

目次

序章 レジリエンスを学ぶ前に
 Part.1 レジリエンスとは何か
 Part.2 失敗を怖れないために失敗について理解する
 
第一章
第一の技術 ネガティブ感情の悪循環から脱出する
第二章
第二の技術 役に立たない「思いこみ」をてなずける
第三章
第三の技術 「やればできる!」という自信を科学的に身につける
第四章
第四の技術 自分の「強み」を活かす
第五章
第五の技術 こころの支えとなる「サポーター」をつくる
第六章
第六の技術 「感謝」のポジティブ感情を高める
第七章
第七の技術 痛い体験から意味を学ぶ
 
参考図書・参考文献
おわりに ~2020年に向けて新しいことに挑戦しよう~
 

2014年4月
中川由美子(ポジティブ心理学コーチング課程修了)