レジリエンスとは? 意味や目的・メリット・研修方法
レジリエンスは、ストレスが増加し、メンタルヘルスが課題となる職場環境で、従業員が困難や失敗で心が折れることなく、自信を持ってチャレンジできるビジネスパーソンに成長するために必要な能力です。NHKなどのTV番組や雑誌など各種メディアでも取り上げられ、関連書籍も多く出版され、数多くの企業や自治体、病院などではレジリエンス研修が行われています。
この記事では、企業の人材育成に関わる人たちや管理職・リーダーに向けて、レジリエンスの意味、レジリエンスを鍛えるポイント、折れない心を持つための習慣をわかりやすく解説します。特に、従業員がストレスに負けないために、レジリエンス能力を高めることは企業の成功に欠かせません。
ぜひ、本記事を参考に、自分自身や従業員のレジリエンス能力を高める機会としてください。

レジリエンスの意味とは?
「レジリエンス」とは、ストレスや困難な状況に陥った時にも、自己のメンタルや感情をコントロールし、チャレンジを続けることができる能力のことです。
レジリエンスは、「resilience」という英語をカタカナにした言葉です。最初は生物学の用語で、「復元力」を意味しました。しかし、心理学の分野では40年以上前に研究が始まり、「精神的回復力」を意味する言葉に変わりました。
心理学の論文には、レジリエンスの定義が100以上載っていますが、当スクールでは全米心理学会(APA)の定義を使用しています。
「レジリエンスとは、ストレスに直面したときに適切に対応する能力を意味する。困難な経験から「立ち上がる」ことを意味する」(APA)
特に、仕事やビジネスにおいては、ストレスやプレッシャーが増し、メンタルヘルスの課題が増える中、従業員が健やかに働き続けるために必要な能力となっています。レジリエンスを鍛えることで、ストレスやトラブルに対して落ち込まず、前向きにチャレンジすることができるようになり、より高いパフォーマンスを発揮することができます。
高いレジリエンスを持つ人の特徴
皆さんの職場や家族にもレジリエンスの高い人がいるかもしれません。彼らに共通する特徴は何でしょうか?実は、レジリエンスの高い人には、以下の3つの特徴があると言われています。
緩衝力:ストレスや他の要因が心に与えるネガティブな影響を緩和する能力。
適応力:外的環境の変化に柔軟に対応する能力。ストレスとなる出来事を成長の機会と捉え直し、自分の見方や考え方を転換することができる能力。
回復力:苦しい経験からスムーズに元の状態に戻る能力。
高いレジリエンスを持つ人は、ストレスに対してのネガティブな影響を緩和し、外的環境などの変化に柔軟に順応し、苦しく困難なストレス体験から元の心理状態にスムーズに回復することができる弾力性の高い心を持っているのです。
レジリエンスを構成する5つの因子
これらの5つの要素がバランス良く有している人は、レジリエンスの高い人材と考えられます。
- 楽観性:物事を前向きに捉え、困難な状況にも立ち向かうための心理的リソース
- 感情調節:感情を制御し、どんな困難な状況にも辛抱強く立ち向かうための心理的リソース
- 人間関係:周囲の人と良好な関係を築くことができ、困難な状況でも自己閉塞的な思考に陥らずに、逆境から立ち直るための心理的リソース
- 自己効力感:自己を信じ、どんな困難な状況にも対応できる心理的リソース
- 自己肯定感:自己に対する前向きな評価であり、困難な状況において「自分は負けない」と感じる心理的リソース
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社員にレジリエンスが求められる理由
職場で働く全ての従業員にとって、レジリエンスは重要な概念です。その理由の一つに、人事・労務上の課題となっているストレス問題があります。
職場にはストレスがつきもので、仕事におけるストレスは個人のパフォーマンスに影響を与え、高レベルのうつ病や不安症、燃え尽き症候群と相関しています。これらの問題は、会社に大きなコストをもたらし、社員のストレスを減らすための試みが必要です。
そこで期待されているのは、従業員自らがストレスを管理できるようになること。レジリエンスの高い従業員はストレスにうまく対処でき、「燃え尽き症候群」になる可能性も低く、これは会社にとっても有益です。

なぜリーダーにレジリエンスが必要?
1)変化の激しい「VUCA」な世の中であること
なぜリーダーにレジリエンスが必要かと言うと、現代のビジネス環境では不透明感や不確実性が増し、VUCA(ブーカ)な世界が広がっているためです。このような環境下で、先が見えない仕事やチャレンジに対して不安を感じ、回避してしまうリーダーや管理職は少なくありません。しかし、VUCAな世界を変えることはできません。変化はますますスピードアップしています。それでも、その変化に抵抗するのではなく、適応するためにレジリエンスの高いリーダーが求められています。

2)ウェルビーイング(心の健康)が重視されていること
現在、「働き方改革」や「健康経営」が重視される中で、従業員の心の健康(ウェルビーイング)を大切にする企業が増えています。 ストレスが従業員の心の健康に悪影響を与えることはよく知られていますが、職場でのストレスの主な原因は上司との関係です。 上司から叱られたり、ネガティブな態度でコミュニケーションされることで、心が折れそうになる若手の社員は少なくありません。
そのためには、リーダーや管理職の立場にいる人は、部下のレジリエンスを高めるために、レジリエンスの高い人材の特徴を理解し、実践することが求められています。
レジリエンスを鍛える目的
レジリエンスを鍛える目的は、ストレスや変化に対して適応力を高め、ネガティブな感情を理解し、適切に対処する方法を学ぶことにあります。レジリエンスを鍛えることで得られる力には、ストレスへの免疫力、変化適応力、目標達成力があります。これらの力を身につけることで、ストレスや変化に対して適応し、目標を達成するための心理的な柔軟性を高めることができます。
1)ストレスへの免疫力
ストレスが多い仕事や生活では、ストレスをはね返す心の免疫が必要です。レジリエンスを鍛えることで、ストレス対処力を獲得します。
2)変化適応力
VUCAの変化の時代では、変化に抵抗せず、しなやかに適応できる心の柔軟さが必要です。レジリエンスをトレーニングすることで、変化に対して柔軟に適応する能力を習得できます。
3)目標達成力
目標を実現するには、諦めずにやり抜き、失敗から立ち直る心の筋肉が必要です。レジリエンスを訓練することで、困難から回復する打たれ強さを身につけられます。
レジリエンスは習得が可能
強いレジリエンスは、困難や苦悩を免れることではありません。逆境に直面したときには、感情的な痛みは感じられます。レジリエンスとは、どのように逆境を受け入れ、対処するかにあります。
ストレスや逆境を経験したときに、内面化し、適用することができる学習行動とも言えます。研究によると、レジリエンスは、どのように逆境を解釈するかによって形成されることが明らかになっています。つまり、単に特性や周囲の環境によるものではなく、レジリエンスは改善、開発、育成することが可能です。レジリエンス研修は、そのための有効な方法の一つです。
職場でのレジリエンス研修が有効
職場において、レジリエンス研修は、心理療法やカウンセリングの領域で主に研究・応用されているものです。近年、うつ病の若年化が問題となっているため、レジリエンス教育がうつ病の予防策として使われるようになり、また、メンタルヘルスが重視されるようになった職場の領域でも注目を集めています。
研究によれば、職場でのレジリエンス研修は、メンタルヘルスと主観的幸福度にポジティブな影響を与えることが分かっています。Robertsonらによると、オンライン研修、グループベースの研修、1対1の研修、グループベースと1対1の研修の組み合わせなど、さまざまな形態でのレジリエンス研修が、ストレスやうつ、不安などのネガティブな気分・影響・感情に対して特に有効であることが明らかになっています。
レジリエンスを鍛える『SPARKレジリエンス®︎』
『SPARKレジリエンス®︎』は、2009年にイーストロンドン大学のイローナ・ボニウェル博士らにより開発され、欧州やアジア、日本などで企業や学校教育において導入されているレジリエンス研修です。
SPARKは、ストレスに適応するプロセスを示す用語で、S(ストレス)、P(捉え方)、A(感情)、R(反応)、K(知識)の5つの要素に分かれています。
- S(ストレス) - 状況の明白な事実は何ですか?
- P(捉え方)- 何が起こっているかをどう解釈しているか?
- A(感情)- どのように感じていますか?
- R (反応) - あなたは何をしますか?
- K(知識)- あなたの行動の結果は何ですか?
調査により、『SPARKレジリエンス®︎』は、レジリエンス、自己肯定感、抑うつの低減などに正面的な影響を与えることが確認されています。また、コロナ禍での対面研修ができない時期にも、オンライン研修に参加した180名を対象とした調査では、研修参加グループとコントロールグループにおける研修実施前後の質問調査において、レジリエンスの増加、エンゲージメントの高まり、ポジティブ感情の向上、意義感の増加、ストレス度の低減、ネガティブ感情の低下などが確認されました。
職場では、従業員を支援し、レジリエンスとエンゲージメントの高い従業員を育成することが求められており、『SPARKレジリエンス®︎』による研修を通じて、世界各地の企業で従業員のレジリエンス、ストレス耐性、エンゲージメントなどが高められています。
ハーディネスとレジリエンスの違い
米国の大手通信会社の従業員を対象に、2年間にわたる調査を行った結果、「ハーディネス」というストレスフルな状況に対しての「3つのC」として、Commitment(コミットメント)、Challenge(チャレンジ)、Control(コントロール)が挙げられました。
研究が行われた12年の間に、従業員のほぼ50%が職を失い、3分の2が大きなストレスとなるライフイベント(離婚、うつや不安などの精神衛生上の問題、心臓発作など)を経験していました。それにもかかわらず、3分の1の従業員は、直面した途方もない困難を乗り越えることができたのです。調査した人の中には、その会社での仕事を維持した社員の一人はトップに上り詰め、また、不運にも職を失った社員は、自分の会社を設立したり、他の会社で重要な仕事をすることになりました。
これらの「3つのC」は、ハーディネスの高い人材に共通する態度や姿勢であり、調査した従業員が直面した途方もない困難を乗り越えることができた理由となっています。
3つのCの姿勢によって、従業員は自分にとって何が起こっているのかを正確に理解することができ、仕事に打ち込むことで、目の前の仕事に専念できるようになります。
コミットメントの姿勢では、撤退するよりも周りの人や出来事と関わり続けることができます。チャレンジの姿勢では、自分の運命を嘆くのではなく、ストレスを通して自分がどう成長できるかを発見しようとします。コントロールの姿勢では、あきらめるのではなく、自分が関わっている結果に影響を与える努力を続けます。
ハーディネスの高い人材は、レジリエンスの強い人材と似ています。ただ、ハーディネスは、困難な仕事などのストレスに対して理想的な態度や姿勢を示すものとされています。
メンタルタフネスとレジリエンスの違い
メンタルタフネスとレジリエンスは、スポーツや経営などで高い結果を出すために重要な性格特性の一つですが、それぞれ異なります。
メンタルタフネスは、困難をどのように評価し、アプローチするかに影響を与える個人的特性を指し、ポジティブな状況にもネガティブな状況にも適用されます。
一方、レジリエンスは、逆境に対処するために用いられる保護要因で、主に逆境に対処するために使用されます。スポーツの世界では、試合に勝利し高い結果を出すためにはメンタルタフネスが重要だと負われています。しかし、メンタルタフネスは、必ずしもレジリエンスとは厳密に同じものではありません。
ポジティブ シンキングとレジリエンスの違い
「レジリエンスはポジティブシンキングと同じではないか?」という質問を受けることがありますが、実際には、レジリエンスとポジティブシンキングは異なります。
ポジティブシンキングは、失敗やトラブルが起きたときに、現実から目をそらして「なんとかなるさ」と幻想的に将来を考えてしまうことを意味し、「非現実的な楽観主義」と呼ばれます。
一方、レジリエンスは、ネガティブな感情を否定せずに、現実やネガティブな感情を受け入れ、自分の思考や感情に対処する力を意味します。強いレジリエンスの人は、ネガティブな感情をうまく整理し、気晴らしをすることで、次のチャレンジに向かって立ち直ることができます。
ストレスを避けるために、ネガティブな感情を抱かないようにすることは危険です。例えば、上司からハラスメントを受けるような場合に我慢したり、理不尽なことに怒りを感じないようにすることは、自分の感情を麻痺させる結果になる可能性があります。感情を抱くこと自体は悪いことではなく、適切に対処することが重要です。
グリットとレジリエンスの違い
グリット(Grit)とは「超長期的な目標に対する関心と努力を持続する傾向のこと」と定義され、注目を集めている心理的資源です。レジリエンスと深く関係があります。
グリッドの主要研究者であるDuckworthら(2007)によると、グリットは生まれつき多くの人が持っていますが、経験によって発達する特性であると主張しています。
グリットは、特定の目標に対する強い情熱を持ち、苦しくても、くじけそうになっても、一時的に失敗しても、目標に向かって一貫して努力を続けることを意味します。グリットは、情熱と忍耐力のレベルも高いと考えられます。
一方で、レジリエンスは、苦労したり、挫折したり、失敗したりしても、立ち直る力のことです。グリットにおける忍耐力と関係があります。グリットは、目標に向かうエンジンとも考えられ、レジリエンスは、そのエンジンを動かし続けるためのオイルのような存在です。
まとめ
レジリエンスとは、ストレスや不利な状況に適応する能力を指します。VUCA(変化の激しい世界)において、柔軟に対応し、負の過程から立ち直る能力も備えています。職場では、従業員のレジリエンスを高める研修を導入することで、健全なメンタルを持つ個人・企業・社会を形成することが期待されます。
参考文献
- Boniwell, I. & Ryan, L. (2009). SPARK Resilience: A teacher’s guide. London, UK: University of East London.
- Cary L. Cooper, Jill Flint-Taylor. Building Resilience for Success: A Resource for Managers and Organizations
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- Maddi, S., & Khoshaba, D. (2005). Resilience at work: how to succeed no matter what life throws at you. New York: American Management Association.(邦訳「仕事ストレスで伸びる人の心理学」サルバトール・R・マッディ、デボラ・M・コシャバ)
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- Robertson, I. T., Cooper, C. L., Sarkar, M., & Curran, T. (2015). Resilience training in the workplace from 2003 to 2014: A systematic review. Journal of Occupational and Organizational Psychology.
- Yeager, D. S., & Dweck, C. S. (2012). Mindsets that promote resilience: When students believe that personal characteristics can be developed. Educational psychologist, 47(4), pp.302-314.
執筆者の紹介
久世浩司
ポジティブサイコロジースクール代表
応用ポジティブ心理学準修士(GDAPP)
認定レジリエンス マスタートレーナー
当スクール代表の久世浩司は、ポジティブ心理学とレジリエンスを専門にしています。慶應義塾大学卒業後、P&Gに入社し、その後は社会人向けのスクールを設立。レジリエンス研修の認知向上と講師の育成に取り組んでいます。NHK「クローズアップ現代」や関西テレビ『スーパーニュースアンカー』などでも取り上げられ、著書による発行部数は20万部以上。研修・講演会の登壇は上場企業から自治体・病院まで100社以上の実績があります。
主な著書
『「レジリエンス」の鍛え方』
『なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』
『なぜ、一流になる人は「根拠なき自信」を持っているのか?』
『リーダーのための「レジリエンス」入門』
『なぜ、一流の人は不安でも強気でいられるのか?』
『親子で育てる折れない心』
『仕事で成長する人は、なぜ不安を転機に変えられるのか?』
『マンガでやさしくわかるレジリエンス』
『図解 なぜ超一流の人は打たれ強いのか?』
『成功する人だけがもつ「一流のレジリエンス」』
『眠れる才能を引き出す技術』
『一流の人なら身につけているメンタルの磨き方』
『「チーム」で働く人の教科書』
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