ジョブクラフティングとは?
仕事満足度やモチベーションを高める人事・組織開発手法

初稿:2022/11/5
改訂:2023/1/28

 
「ジョブクラフティング」は、最近注目を集める人材育成手法であり、従業員が仕事に意味やパーパスを感じ、イキイキと働ける職場環境を目指すために使用されています。
 
ワークエンゲージメントが重視される現在、職場で「やらされ感」を持つ従業員が少なくない中、「ジョブクラフティング」は従業員の働きがいを向上させる手段の一つであり、本記事ではこの方法について詳しく説明します。
 

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ジョブクラフティングとは何?

ジョブクラフティングは、社員が新たな活力を得て、自分の仕事をコントロールできるようになるための強力なツールです。仕事上の役割を変えることなく、仕事の捉え方や人間関係のあり方を柔軟に創造的に変えることで、仕事からより多くの意味と働きがいを得ることができます。
 
心理学者は、ジョブクラフティングを以下のように定義しています。
 

ジョブクラフティングとは、仕事、人間関係、仕事に対する認識を変えることで、仕事でやり方を再設計すること(Berg et al.、2007)」

 

「従業員主導のアプローチで、従業員が仕事の要求とリソースを調整することで、個々のニーズに合った職場環境を形成することを可能にする(Tims & Bakker 2010)」

 

「ジョブクラフティングとは、従業員が自分の仕事を変える必要があると感じたときに行う積極的な行動である(Petrou et al., 2012)」

 
つまり、ジョブクラフティングは、自分の仕事を別の方法で再定義することで、より高いワークエンゲージメントと働きがいを得る手法なのです。

開発したのは誰?

ジョブ クラフティングは、2001年に米・ミシガン大学のジェーン・ダットン教授と米・イェール大学のエイミー・ウルゼスニウスキー教授は、により開発されました。
 
ジョブ・クラフティングの最大の特徴は、上司ではなく、自分自身が主導権を握っていることにあります。ダットン教授らは、仕事で意味を見出すためには、従業員を「運転席に座らせる」ことを重視しました。
 
ジョブ・クラフティングは、自分の仕事を有意義に変化させるのに役立つ、シンプルな手法です。研修によって行えば、日々の仕事から一歩離れ、自分の仕事の要素を再構成することが可能です。

企業組織でのジョブクラフティングの効果

ジョブクラフティングは、組織心理学の専門家により、以下の主要な利点があることが証明されています。
 

より高いワークエンゲージメント

仕事に対する見方や関わり方を変えることで、職務内容をコントロールする感覚が得られるだけでなく、人とのつながりからより大きな充実感を得ることができます (Wrzesniewski & Dutton, 2001)。
 

モチベーションを高める

ジョブクラフティングは、従業員が自分の動機、強み、そして何よりも可能性を発見するのに役立ちます。従業員が自分の仕事を自分仕様にカスタマイズできると感じれば、仕事をコントロールできるようになり、、それが内発的動機づけになり、モチベーションを高めます(Halbesleben, 2010)。
 

ウェルビーイングの改善

自分のキャリアがどこに向かっているのかが明確になることや、自分で自分の仕事を作り替えることができることは、ウェルビーイングにつながります(Slemp and Vella-Broderick (2013))。
 

目標達成力

自分の職務を分析し、目標を明確にすることで、ジョブクラフティングを通じてより効果的に目標に向かって前進することができます(Strauss et al.)。また、従業員の生産性を向上させ、より良いビジネス成果を生み出し、仕事のパフォーマンスを高める可能性があります(Goodman & Svyantek, 1999)
 

組織のパフォーマンスの向上

自分の仕事を自分で形作るという行為は、本質的に革新的で創造的であり、組織をより柔軟に適応的にするのに役に立ちます。とくに変化の激しいグローバルなビジネス環境では、企業の競争優位に貢献することができます(Frese and Fay (2001)。

自分の業務内容をクラフトする3つの主な方法

ジョブクラフティングの手法は、自分の職務を3つの点で作り替えることが中心となっています。
 
1. 業務内容をクラフトする
2. 人間関係をクラフトする
3. 捉え方をクラフトする
 
これらを通じて、現在の職務に欠けている可能性のある職務と人との適合性を生み出すことを目指すことができると考えられています(Wrzesniewski & Dutton, 2001)。
 

業務内容をクラフトする

職務をクラフトすることは、自分が任されている職務の捉え方を柔軟に見直して、責任を追加したり、削除したりすることです(Berg et al., 2013)。
 
たとえば、自分の仕事に有意義だと思う職務やプロジェクトを追加することが一例です。ある歯科医が、虫歯予防の習慣を教えるために、週末に親子向けのセミナーを行いました。これは通常の歯の治療の職務に追加された仕事ですが、より意味を感じる仕事となります。
 
ある年配の営業担当者は、営業課に所属になった新卒の後輩の面倒を見てくれと言われました。そこで、普段は一人で営業先に行くことがルーティーンだったのですが、後輩を営業に同行させ、顧客に販売するために重要な営業姿勢や営業トークを見せ、学習する機会を与えました。その結果、後輩が仕事で成果をあげ一人前になるために必要なスキルを教えることになり、後輩から感謝されました。普段の仕事がより有意義なものになり、活力を得ることができました
 

人間関係をクラフトする

これは、仕事における人との関係性を作り変える方法です。さまざまな職務で一緒に仕事をする人、普段からコミュニケーションをとっている人、関わっている人を変えることで、働きがいを高めることができます(Berg et al.)。
 
ある女性社員は、リモートワークを経験したことで、顧客や同僚とより深く個人的なつながりを築くことが、自分のやりがいにつながることに気付きました。そのため、オフィスでの仕事に復帰してからは、ミーティングには早めに参加し同僚とのおしゃべりを楽しみ、チームのエネルギーが低下したときにそれを察知し、チームを元気づけさせることで、チームに貢献しています。
 

捉え方をクラフトする

これは、自分の仕事の捉え方を変える方法です。私たちは、自分のしていることに対する視点を変えることで、「忙しい仕事」と思われていることにより大きな意味を見出したり、創造的に仕事したりすることができるのです。
 
例えば、レストランのシェフは、単に料理を提供することが職務ではなく、顧客の食事体験を高めるような美しいデザインの皿を作ることを自らの職務として捉えることで、働きがいを高めることができます。
 
また、バスの運転手は、バスを安全に運転するだけでなく、観光客に役立つ観光案内をすることも新たな職務の捉え直しとなります。
 
ホテルの清掃係は、部屋の掃除をしてベッドシーツを交換する職務を、旅行者の旅をより快適で思い出深いものにするという意味合いをもつことで、やりがいが高まるかもしれません。


このように、自分の担当する仕事の内容を変えたり、捉え方を変えることで、仕事の異動や転職を行わなくても、有意義さが増すのです。

ポジティブ心理学とジョブ・クラフティング

ジョブクラフティングは、自分の仕事にどれだけの意義を見いだせるかを示すものです。これはポジティブ心理学の創始者であるマーティン・セリグマン教授の提唱するウェルビーイング理論「PERMAモデル」における5つの重要な概念の1つです。
 
セリグマン教授は、PERMAモデルのMである「Meaning(意義)」についてこう述べています。
自分の得意なことや長所を自分よりはるかに大きなもののために使うこと" (Seligman, 2004)

ポジティブ心理学では、仕事により多くの意味を見いだすことで、幸福度が高まると言っています。実際、働きがいをもつことは、仕事の満足度、パフォーマンス、モチベーションの向上と高い関連があるのです(Hackman & Oldman, 1980; Rosso et al.、2010)。


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人事で人材育成や組織開発に活用するには?

職場での人材育成において、仕事満足度やモチベーションが課題となる現場は増えています。若手だけの問題だけでなく、ストレスが多い中間管理職や家庭と仕事の両立が必要な女性社員、さらには定年が近づくシニア社員も悩みを抱えています。
 
ジョブクラフテイングは、幅広い研修対象に活用できます。
 
  • 新人研修・中途入社研修の一部に
  • キャリア研修の演習として
  • モチベーションを高めるチームビルディング研修として
  • 管理職研修や管理職のコーチング研修として
  • 女性リーダー向け研修として活用
  • シニア向け研修として演習を実施

 

ジョブクラフティングをコーチングに生かす

さらに、近年多くの企業で導入されている上司と部下の間のコーチング面談や1on1面談においても、部下の「働きがい」を高める手法として、ジョブクラフティングが活用できます。

やりがいとエンゲージメント改善の従業員研修として

 
ジョブ ラフテイングを行うためには、まず「ジョブクラフト」がどのようなものかを知ることが大切です。研修に参加することで、どこから始めればいいのか、どのような機会を追求すればいいのかのイメージを持つことができます。
 
ジェーン・ダットン教授らが開発した「ジョブクラフティング演習」は、自分の仕事を「変化可能」「作りやすい」「コントロールしやすい」と考えるように促すことで、今の仕事を自分にとって意味のある形に捉え直すことを支援します(Berg, Dutton, and Wrzesniewski (2013))。
 

1. 現在の仕事を大局的に理解

これは、さまざまな職務にどのように時間を配分し、費やしているかを理解するのに役立ちます。そして時間だけでなく、自分のエネルギーを何に費やしているかを広く考えてみます。

 

2. 仕事全体を3種類の職務ブロックにグループ化

最も大きなブロックは、自分の労力、注意、時間を最も消費する職務です。最も小さなブロックは、エネルギー、注意、時間を最も消費しない職務です。それ以外はは中間の「中型」ブロックに分類されます。


3. 自分の理想とする役割を作成

自分の強み、情熱、動機を活かして、自分の仕事をより有意義なものに作り変えていきます。その際、グループ化という同じ方法を使いますが、今回は優先順位を変えます。
 

4. 異なる職務をフレーム化

ここで、自分の仕事の捉え方を作り上げることで、異なる職務に新しい名称を付けることができるようになります。
 

5. 短期と長期の目標を設定するためのアクションプランの作成

現在の仕事から理想の仕事へ、どのように移行していくのか、アクションプランを計画します。


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まとめ

1日の中で多くの時間を占める毎日の仕事で働きがいを持つことができると、人生が充実し幸福度も高まります。ジョブクラフティングを使って、退屈な仕事を好転させることは、個人にとっても企業にとってもプラスになると考えられます。
 

久世 浩司(ポジティブサイコロジースクール代表)

参考文献

Bakker, A.B., & Demerouti, E. (2007). The Job Demands-Resources model: State of the art. Journal of Managerial Psychology, 22, 309–328.
 
Bakker, A.B., Demerouti, E., Taris, T., Schaufeli, W.B. & Schreurs, P. (2003). A multi-group analysis of the Job Demands-Resources model in four home care organizations. International Journal of Stress Management, 10, 16–38.

Berg, J.M., Dutton, J.E., & Wrzesniewski, A. (2007). What is Job Crafting and Why Does It Matter?. 

Berg, J. M., Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2010). Perceiving and responding to challenges in job crafting at different ranks: When proactivity requires adaptivity. Journal of Organizational Behavior, 31(2-3), 158‐186.

Berg, J. M., Dutton, J. E., & Wrzesniewski, A. (2013). Job crafting and meaningful work. Purpose and meaning in the workplace, 81, 104.

Demerouti, Peeters, Schaufeli, & Hetland, 2012 Petrou, P., Demerouti, E., Peeters, M. C. W., Schaufeli, W. B., & Hetland, J. (2012). Crafting a job on a daily basis: Contextual correlates and the link to work engagement. Journal of Organizational Behavior, 33, 1120–1141.

Hackman, J. R.& Oldham, G. R. (1976). Motivation through the design of work: Test of a theory. Organizational Behavior and Human Performance, 16, 250-279.

Hackman, J. R.& Oldham, G. R. (1980). Work redesign. Reading, MA: Addison-Wesley.

Halbesleben, J. R. B. (2010). A meta-analysis of work engagement: Relationships with burnout, demands, resources, and consequences. In A. B. Bakker & M. P. Leiter (Eds.), Work engagement: A handbook of essential theory and research (pp. 102–117). New York, NY: Psychology Press.

Rosso, B. D., Dekas, K. H., & Wrzesniewski, A. (2010). On the meaning of work: A theoretical integration and review. Research in organizational behavior, 30, 91-127.

Schoberova, M. (2015). Job crafting and personal development in the workplace: Employees and managers co-creating meaningful and productive work in personal development discussions. MAPP Capstone Project, University of Pennsylvania.

Seligman, M. E. (2004). Authentic happiness: Using the new positive psychology to realize your potential for lasting fulfillment. Simon and Schuster.

Strauss, K., Griffin, M. A., & Parker, S. K. (2012). Future work selves: How salient hoped-for identities motivate proactive career behaviors. Journal of Applied Psychology, 97, 580–598.

Tims, M., & Bakker, A. B. (2010). Job crafting: Towards a new model of individual job redesign. South-African Journal of Industrial Psychology, 36, 1–9.

Tims, M., Bakker, A. B., & Derks, D. (2013). The impact of job crafting on job demands, job resources, and well-being. Journal of occupational health psychology, 18(2), 230.

Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of management review, 26(2), 179-201.

Wrzesniewski, A., Berg, J. M., & Dutton, J. E. (2010). Managing yourself: Turn the job you have into the job you want. Harvard Business Review, 88(6), 114-117.

執筆者の紹介

久世浩司 

ポジティブサイコロジースクール代表
応用ポジティブ心理学準修士(GDAPP)
認定レジリエンス マスタートレーナー
 
当スクール代表の久世浩司はポジティブ心理学レジリエンスを専門にしています。慶應義塾大学卒業後、P&Gに入社し、その後は社会人向けのスクールを設立。レジリエンス研修認知向上と講師の育成に取り組んでいます。NHK「クローズアップ現代」や関西テレビ『スーパーニュースアンカー』などでも取り上げられ、著書による発行部数は20万部以上。研修・講演会の登壇は上場企業から自治体・病院まで100社以上の実績があります。
 

主な著書
『「レジリエンス」の鍛え方』
『なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』
『なぜ、一流になる人は「根拠なき自信」を持っているのか?』
『リーダーのための「レジリエンス」入門』
『なぜ、一流の人は不安でも強気でいられるのか?』
『親子で育てる折れない心』
『仕事で成長する人は、なぜ不安を転機に変えられるのか?』
『マンガでやさしくわかるレジリエンス』
『図解 なぜ超一流の人は打たれ強いのか?』
『成功する人だけがもつ「一流のレジリエンス」』
『眠れる才能を引き出す技術』
『一流の人なら身につけているメンタルの磨き方』
『「チーム」で働く人の教科書』



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