• ポジティブ サイコロジー スクール

お申し込み・お問い合わせ
TEL: 03-6869-6493
Eメール: info@positivepsych.jp

【書評】オプティミストはなぜ成功するか

マーティン・セリグマン (著) 山村 宜子(訳)

AmazonへリンクしますLinkIcon

ポジティブ心理学に到るまでのセリグマン教授の考えが理解できる良書

オプティミスト.jpg
世界中でベストセラーになり、マーティン・セリグマン教授の名を一般にも知らしめた「Learned Optimism」の翻訳書です。初版から20年以上経っているため、古典の域に近づこうとしている本ですが、以前は講談社から発刊されていた文庫は絶版となり、現在はハードカバーとして別の出版社から改訂版として出ています。学習性楽観主義という、新しい分野についての研究事例が豊富に語られた、読んで楽しい一般書です。

私が本書をおもしろいと思う理由は3つあります。

まずオプティミズムという、ともすれば生まれながらの性格と考えられがちな特質に関して、「説明スタイル」という分析・測定可能なアプローチが見いだされたこと。説明スタイルについては、セリグマン教授と長く共同研究をしてきたクリス・ピーターソン博士の功績も無視できません。この説明スタイルの実証性の検証により、楽観度を測る診断テストも開発され、さらには大統領の演説内容やメジャーリーグベースボールやプロのバスケットボールチームの監督がインタビューで使用した言葉などを分析して楽観度レベルを測定するCOVAと言われる手法も生まれたわけです。

この説明スタイルについての説明は本書を読んでいただければと思うのですが、これはもともとペシミズム(悲観主義)を測定するために編み出されたものでした。ただ、セリグマン教授らのすごいところは「ペシミストや無力感の高い人と真逆の説明スタイルの持ち主は、オプティミストと言えるのではないか」とリフレーミングしてしまったところです。そして「悲観主義や無力感も環境・状況により後天的に学習するのであれば、楽観主義や希望も学ぶことはできるのではないか」と創造的に考えました。

2点目のおもしろい部分は、この説明スタイルを使って、さまざまな分野で楽観主義と達成・成果の相関関係の調査が行われているところです。おそらく、それらの調査研究がなされていたセリグマン教授の研究室は、活気と笑いに満ちあふれた様子だったに違いありません。それ以前は、うつ病患者の研究に没頭していたわけですので、大きな違いだったでしょう。

本書では、楽観性と生命保険会社のセールスマンの営業成績、楽観主義な大統領とそうでない候補者との当選率、楽観性の高い水泳選手のストレス耐性やパフォーマンス、バスケットボールチームの監督の楽観的または悲観的な口癖とチームの成績、さらにはハーバード大学卒業生の50年ごと楽観性の関係などが、具体的に描かれています。心理学では、ときおりユニークな研究に巡り会うことがありますが、これらの研究はその中でもとくに独自性に溢れて忘れられないものです。ぜひ楽しんでお読み下さい。

私が興味を示した最後の点が、セリグマン教授がなぜポジティブ心理学を創始したのかについてのヒントが垣間みられたところです。

本書の原書が出たのが1990年。セリグマン教授が全米心理学会の会長に選出されて、ポジティブ心理学を提唱して世界の心理学者のあっといわせる約10年前です。この本が出る前は、セリグマンと言えば「学習性無力感」研究の第一人者でした。つまり

学習性無力感(Learned Pessimism)→ 学習性楽観主義(Learned Optimism)→ ポジティブ心理学(Positive Psychology)

という変遷をセリグマン教授はたどっているのです。ポジティブ心理学で非常に有名になったので見逃されがちですが、セリグマン教授の研究キャリアの大半は無力感や抑うつの研究に費やされてきたという事実を知ることは大切だと考えます。心理状態をマイナスからゼロに戻すための治癒・治療の研究を極めた後にたどり着いたのが、心理状態をゼロからプラスに向上するポジティブ心理学だったのです。

とくに(4人もの子供がいることもあり)セリグマン教授の子供に対するケア心が「子供を悲観主義から守るには」といった章に感じられます。本書の次に出版された書籍は「つよい子を育てるこころのワクチン―メゲない、キレない、ウツにならないABC思考法(The Optimistic Child)」という子供の楽観性にフォーカスした本書のスピンオフですし、ポジティブ心理学について書かれた「世界で一つだけの幸せ」でも後半の一章をまるまる「子供達をポジティブに育てる」に割いているところから、セリグマン教授の子育てに対する情熱が感じられます。子供に愛情深い奥さんの影響が強いと、セリグマン教授のことをよく知る人から聞いたことがあります。何でも、米国外に講演会や会議で招かれて長く出張するときには、家族全員で旅をするほど、家族とのつながりや共有された時間を大切にしているそうです。

セリグマン教授の研究は、学習性無力感から学習性楽観主意への動きは「飛躍」のように見えますが、本書を読むとそれが決してそうではなかったことに気づかされます。180度の転換ではなく、自然な流れだったようです。しかしながら、精神疾患研究が主流の心理学の世界で、治癒治療に役に立ちそうにないオプティミズムの研究をすることには勇気が必要ですが。

そして学習性楽観主義からポジティブ心理学への動きは飛躍というよりも発展・拡大と言えますが、そのきっかけにはセリグマン教授の娘の一言が大きく影響したことは、ポジティブ心理学を学ぶ人には有名なストーリーです(詳しくは「世界で一つだけの幸せ」をお読み下さい)

以上、三点から、私は本書を良書だと考え、ポジティブ心理学に興味をもつ人はもちろん、仕事やキャリア、子育てや人間関係に関心の高い人に読んでほしいと思います。


目次


旧版のためのまえがき
第二版のための序論

第一部 オプティミズムとは何か
第1章 人生には二通りの見方がある
第2章 なぜ無力状態になるのか
第3章 不幸な出来事をどう自分に説明するか
第4章 悲観主義の行きつくところ
第5章 考え方、感じ方で人生が変わる

第二部 オプティミズムが持つ力
第6章 どんな人が仕事で成功するか
第7章 子どもと両親――楽観主義は遺伝するか
第8章 学校で良い成績を上げるのはどんな子か
第9章 メッツとビオンディはなぜ勝てたか
第10章 オプティミストは長生きする
第11章 選挙も楽観度で予測できる

第三部 変身――ペシミストからオプティミストへ
第12章 楽観的な人生を送るには
第13章 子どもを悲観主義から守るには
第14章 楽観的な会社はうまくいく
第15章 柔軟な楽観主義の勧め


久世 浩司(ポジティブサイコロジースクール 代表)