• Recollection of MAPP in U-Penn
  • ペンシルベニア大学 MAPP回想録
  • ポジティブ心理学の第一人者から何を学んだのか?

#8 ポジティブサイコロジーの応用:人事・採用編
~組織と個人の繁栄のための人材採用~


今回のテーマは、ポジティブサイコロジー(PP)を日本の人事、とりわけ人材採用に
どのように応用できるか?です。
 
MAPP卒業後、HRコンサルティングに携わった自身の経験を踏まえ、
個人的な見解も交えてご紹介できればと思います。
 
ほとんどの企業が、人材採用プロセスの一貫として「面接」を取り入れています。
一切面接も書類審査も行わずに、「早い者順」で人材を採用し、しかも成功している
(=離職率が極めて低く、社員満足度が高く、売り上げも安定的に増加している)企業を一社だけ知っていますが
これは極めて稀なケースでしょう。
 
既存社員の多大な労力とコストをかけ、どこの企業でも日々当たり前のように行われている採用面接。
私自身、MAPP卒業後は人事の仕事を希望し、とりわけ採用に特化したHRビジネスの会社に勤めましたが、
院卒あがりほやほやで、良い意味でも悪い意味でも日本の「当たり前」のやり方に染まっていなかった私には、
ある意味カルチャーショックでした。

日本の人材採用の現状

 
とりわけ中途採用においては、求められるスキルは、後からでも比較的習得可能な「テクニカルスキル」ばかりでした。
とにかく即戦力が欲しいので、○○人規模のプロジェクトリーダー経験、○○分野での○○経験3年以上、など
似通った「経験」を重視します。
必要経験さえ満たしていれば、人物面で特に問題がなければ即採用、というような企業もありました。
また、転職回数は○回以下で、転職の際に空白期間があれば怪しいので不採用、というのは
もはや暗黙の了解と言えるでしょうか。
レジメを見れば分かる内容ばかりなので、面接はそれを「確認」するくらいの位置づけです。
 
もちろん、全ての企業が当時も今もそうだというわけでは決してありませんが、
PP介入の余地が多いにありそうな匂いがぷんぷんしています。
これは私個人の見解ですが、具体的には、「インターパーソナルスキル」・「タレント(才能や強み)」・「価値観」が
もっと重要視されるべきだと思っています。
 

その1:「インターパーソナルスキル」

 
「インターパーソナルスキル」とは、他者との関わりをより発展的・創造的にするためのスキルで、
簡単に言えば、他者とより良い関係を構築する能力です。
 
「インターパーソナルスキル」の重要性については、ハーバード大学が最近発表した、
「どのような男性が将来性があり仕事で成功するのか?」という研究結果においても
その重要性が改めて浮き彫りになりました。
その研究によると、「将来性」はIQや様々な生活習慣とは何ら関係なく、人間関係に最も左右されるとの事―。
(ちなみに、この研究には20億円という莫大な研究費と、75年間という期間が費やされたそうです。)
 
当然といえば当然の結果なのですが、
レジメでは分かりにくいこの「インターパーソナルスキル」を面接でどう見極めるか?については
意外とあやふやなままという企業が多いのが現状です。
 

その2:「タレント(才能や強み)」

 
「タレント(才能や強み)」は、後から習得するのがより困難だと言われています。
だからこそ、採用の段階での見極めが大切です。
しかも、「タレント」を仕事に活かせば、本人は充実感や満足度が増し、パフォーマンスや生産性の向上にも直結する。
経営視点から見ても、社員の「タレント」を活用しない手はないはずです。
 
こんなエピソードもありました。
マーティ(セリグマン教授)とたまたま同じ飛行機に乗りあわせた、アメリカの大手生命保険会社の社長がいました。
保険のセールスは他のセールスと比べて受注率が低いため、
「ノー」と言われ続けることに耐えかねなくなった社員がどんどん退職してしまっていたそうです。
社員の離職率の高さに頭を抱えていた社長がマーティに相談をした結果、ある実験を試みることにしました。
従来通りの、「保険セールスのキャリアプロファイルテストに合格した社員」の新規採用に加えて、
「そのテストは不合格だったが、超楽観的な社員」を新たに採用し、数年後に彼らのパフォーマンスを比べてみた所、
後者のグループの方が27%も売り上げが高かったそうです。
 
一見驚いてしまうような結果ですが、似たような事が日本の多くの企業でも起こっているのではないでしょうか。
このように、特定の企業文化の中での特定の職種において最も能力を発揮してくれるのは
どんな「タレント」を持つ人材か?という視点で採用すれば、
少なくとも、「レジメは完璧だったはずなのになぜか期待外れ・・・」ということは少なくなるでしょう。
 
保険のセールスであれば、社員の「レジリエンス」を高めることも
生産性アップやリテンションにつながることが期待されるでしょう。

その3:「価値観」

 
最後に、「価値観」についてですが、これもまた後から変えることが難しいものです。
企業文化も含めたその組織独特の考え方や価値観に、候補者個人の価値観がマッチしているかどうか、
という点は意外に大切だと思います。
 
最近、日本でも増え続けている離婚―。
その最大の理由は「価値観や性格の不一致」とも言われています。
企業と人材の関係も結婚に似ている、とよく言われるように、
企業としても個人としても「価値観」をもっと大切にしていかなければいけないと思うのです。
 
以上、今回は組織と個人の繁栄のための人材採用について
主に3つのポイントに絞ってご紹介させていただきました。
 
また、今回は少ししか触れませんでしたが、採用後の人材開発トレーニングについても、
最近話題のレジリエンスやAIの導入、管理職社員へのコーチングなど、
組織と個人の繁栄のためにPPを活用できる場面はまだまだいくらでもあります。
 
次号では、ポジティブサイコロジーの応用第二弾として「育児編」を予定しています。
 
(第9回に続く)

2014年9月28日

執筆者の紹介

神谷雪江
米・ペンシルベニア大学大学院 応用ポジティブ心理学修士課程(MAPP)第一期生。修了後は、日本で人事コンサルティング会社に勤務し、ポジティブ心理学の、組織・人事への応用に従事。2009年より米・ボストンに移り、グローバル人材の採用や翻訳業に従事。 強み診断ツール「Realise2」の翻訳にも携わる。