HBR

幸福の経済学

幸せはGDPでは測れない

ジャスティン・フォックス
(ハーバード・ビジネス・レビュー グループ・エディトリアル・ディレクター)

 

「現在、GDPは攻撃の的になっている」と当論分の著者であるハーバード・ビジネス・レビュー誌のジャスティン・フォックス氏は伝えます。GDP(国内総生産)は、長い間国家尺度として使われてきました。ただ、GDP中心の考え方では、国家の成長性や繁栄の持続に限界が見えてきています。GDPの問題には3つあります。

  • GDPは測定方法に欠陥がみられる
  • 持続可能性や持続性に問題がある
  • 進歩と開発の測定には別の指標のほうが優れている場合がある

 
そこで、代替案として脚光を浴びているのが、心理学的研究を重要視する行動経済学者が提案する別の基準です。それはUNDP(国際開発計画)のHDI(人間開発指数)であり、OECD(経済協力開発機構)のBLI(より良い暮らし指標)であり、ブータン王国のGNH(国民総幸福量)のような国家間の幸福度尺度が一つの例です。さらにはフランスのサルコジ大統領、そしてイギリスのキャメロン首相も幸福度尺度を国家指標の一つとして検討する意向を見せています。このように、GDPの代替案について各界で真剣な議論が高まっており、経済政策に実際的な影響を与えるようになるかもしれません。
 

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しかし、幸福度というものはGDPと比べると曖昧で、正確に測定することが難しいとされてきました。幸福度と経済成長との関係性は過去にも研究されてきた分野で、有名なものとして経済学者であるリチャード・イースタリンが挙げた「イースタリンの逆説」があります。

 


これは国における所得水準と幸福度の相関関係についての調査から得られた洞察で、所得の増加に比例して幸福度が高まる国が限られていたと指摘した1974年の論文が基となっています。金銭的に豊かな人は貧しい人よりも大抵は幸せだが、経済的に豊かな国が途上国よりも幸福度が高いとは限らない。それはある一定以上の所得水準を超えると、所得の伸びは幸福度の高まりに寄与しないから、という仮説からです。
 
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その考えをさらに発展させたのが行動経済学者ダニエル・カーネマン博士です。博士は米国国家統計局と共同で、国民の時間の使い方と幸福度との関連性について研究しました。その結果、国民の幸福度が低減する行動(例えば通勤)を減らす環境・政策づくりを国が進めることで、国民の幸福度がアップし社会の生産性が増すと提言しました。国民の精神的繁栄と国の経済的繁栄に貢献する新たな尺度です。

 
当論文では、このように近年脚光を浴びている幸福度尺度と経済の発展についての論考が含まれています。行政・地域に関係する人、そして国家の幸福度に興味がある人は読む価値があります。

 

HBR「幸福の戦略」論文5選

ショーン・エイカー

1
「幸福優位7つの法則」の著者が伝える、『PQ:ポジティブ思考の知能指数』

ダニエル・ギルバート教授

2
ハーバード大学教授のポジティブ心理学研究に関するインタビュー『幸福の心理学』

ジャスティン・フォックス

3
GDPの代替案として各国で議論される幸福度尺度について論じる『幸福の経済学』

グレッチェン・スプレイツァー教授

4
MBAを教える名門ビジネススクール教授が語る『幸福のマネジメント』

 

ピーター・N. スターンズ教授

5
「笑顔は幸福の象徴」という考えは比較的新しいという『幸福の歴史』